第11章 五里霧中
「……別にそんな奴くらい…いるでしょう…」
いくらあいつの生きてきた世界が狭いとはいえ今確か10代後半くらいだったはず。
そのくらいの歳なら…
「いないよ。」
目の前の焼き鳥を箸で掴み、口に入れようとしたところで、向かいのカカシ上忍がポツリとこぼす。
「さゆにとってのそういう奴は、みんな、死んだんだよ。」
しかもあいつはそれを自分のせいだと思ってる。
そう続いた言葉で、焼き鳥のタレの味を待ち構えてた俺の口はぽかんと開いたままになった。
『私には下忍の時から里の外で任務をすると私の班員が殉職するというジンクスがあります。』
『なのでこの先、私は基本的に任務は1人で受け持ちます。』
いつだったか聞いた言葉を思い出した。
思い出して、ようやくその言葉の内容を理解した。
淡々と話すその様子に、言葉をそのまま受け入れていたが、あれだけ確信を持って言うということは自分以外の班員が死ぬのを何度か見たということだ。
『さゆにとっては恩人みたいなもんだから。』
『イタチくんの存在は私にとって光だったので…』
ただの恋人なんかじゃない。
そのまんまだったんだ。
あいつにとってのうちはイタチは恩人であり光だった。
「………マ……ゲンマ!」
「ーっはい?」
「箸、止まってる。」
「あぁ…」
カカシ上忍の声に意識を戻すと、目がとらえた映像が、脳に広がっていく。そこに写された宙で止まったままになっている焼き鳥は、口に入ることはなく、そっと自分の取り皿へおろした。
「……俺はさ、嬉しいんだよ。あいつが失くしたものが、また新しくできようとしてるのが。あいつをちゃんと見てくれる奴が増えるのが、さ。」
「………俺は、全然あいつの事、全然ちゃんと見れてなんてないですよ……」
仲間が死ぬ。
忍びになってからもう聞き慣れた言葉でもあるそれは、記号としてしか、俺の耳に入っていなかった。
「ゲンマ、また固まってるぞ。」
「…あ」
視線を上げると、さっきまでのスッとしていたカカシ上忍の目はゆっくりと和らいでいった。
「今も、さゆのこと考えてたんだろ。それでそんな顔が出来るなら、それだけで、あいつにはきっと充分だ。」