第2章 ことのはじまり
吐血。
敵の身体がビクビクと痙攣を起こし、やがてそれが止まると先生はその骸から貫通していた腕を引き抜いた。
風穴から血を吹き出しながら敵の身体が倒れる。
「さゆ、ありがとう。怪我はないか?」
「はい……大丈夫です…」
先生と協力して敵を殺した。
ただ敵を倒したという達成感や高揚はなく、安堵と恐怖だけが全身を包んでいる。
人を殺した。
忍である限り当たり前のことだ。
自分の守るべきものの為に戦い、その為には人を殺める。
理解していたことだった。
じゃあこの気持ちはなんだ…?
気持ち悪い……
吐き気に襲われる。
「さゆ?落ち着け、もう大丈夫だ。」
「は…い…」
先生が優しく背中をさすってくれる。
仲間が殺された。
そしてその敵を私たちが殺した。
それだけだ。
「それだけ」のはず。
頭の中でぐるぐると回る黒い大きな渦が出来上がっていく。
アオリ…
すがるようにアオリのいる木を見上げる。
アオリは口を大きく開けて何かを言おうとしていた。
ドサッと、
隣で何かが倒れる音がする。
その瞬間すべての音が消えたように感じた。
隣にいた先生が血を流し、目を開いたまま倒れていた。緑の草に赤い水たまりのようなものが広がっていく。
えっ…何これ?
その様子を見たまま動けなっていると誰かに後ろから抱きつかれそのまま体をくるっと反転させられた。
続く衝撃。
腹部が熱い。
熱のある部分に触れるとぬるっとした感覚が手に付いた。
血だ…。誰の?
ゆっくりと後ろへ振り向くとすぐそこにアオリの顔が見えた。口から血を流している。
「さゆ…ごめん…俺…本当…全然ダメだ…ちゃんと守れかった…な…」
「違う…違う…!こんなの違う…!!私が…!私がアオリを…」
意識が遠のいていく。
敵は1人じゃなかったんだ…
死ぬのか…こんなところで…
アオリ…ごめんなさい…ごめんなさい…
消えゆく意識の端で、チリチリと鳥の鳴くような音がした。