第11章 五里霧中
「………一つだけ、聞いてもいいか…?」
「……?」
できるだけ優しく声をかけるとさゆは恐る恐るこちらを見る。
「もし……イタチが、理由はどうあれ木の葉を襲いにきたら……お前はどうするんだ…?」
さゆの目が少し見開かれた。
また怯えられるだろうか?
慎重に、落ち着け俺。
さゆといえば考えるように目を泳がせたまま返事がない。
「答えたくなければはぐらかしていい。どんな答えを聞いたところで誰かに言うつもりもない。」
「……違うんです…。」
「え?」
さゆがゆっくりとこちらへ向き、ポソリとつぶやく。
「その…….私にもわからなくて…」
「……そうか…」
さゆは上の空といった表情でまた里へと向き直った。
少し冷たい風が吹きさゆの黒い髪を揺らす。
夕焼けに照らされたその横顔に、気づけばまた見惚れていた。
「……でも…」
視線は前を向いたまま、さゆがまたゆっくりと口を開く。
「どんな状況でも、味方になれなくても、きっと、イタチ君の事は嫌いになんてなれないと思います…。
重いって思われるかもしれないけど、それでも、イタチくんの存在は私にとって光だったので…。」
言い切ると少し恥ずかしそうに、こちらを見て微笑んだ。
初めて見る表情。
ライドウや他の連中に見せる楽しそうな笑顔とも違う。
いつもの営業スマイルとも違う。
愛おしそうに、どこか切なげに笑うその表情は確かに俺に向けられているけれど、その気持ちは今ここにはいないイタチへのものだ。
カカシ上忍、よく一緒にいれたもんだな。
目の前にある相手が自分を見ないのはこうももどかしいものだとは知らなかった。
イタチじゃない。
今お前の横にいるのは俺だよ。
さっき引っ込めたはずの手は、ゆっくりと、今度こそさゆの頬に触れた。
こっちを見ろ。