第11章 五里霧中
俺からイタチの名を聞いた時のさゆは酷く怯えたような顔になった。そんな顔をされるとは思わなくて思わず眉間にシワが寄る。
こいつは何にこんな怯えているんだろうか。
自分の一族を殺した恋人の話は嫌でも耳に入ってきたはずだ。イタチをまだ信じているあいつにとってそれはどの様に聞こえていたのか…
その答えがこの表情に込められているのだろう。
「悪かった。」
その言葉は自分でも思っていた以上に自然と出てきたのもきっとそんな顔を見てしまったせいだ。
元より謝ろうとは思っていたから良かったと言えばよかったが、言い切ったところで、今度はポロポロとこちらを見つめたまま涙をこぼし始めたのにはギョッとした。
「大丈夫か…?」
「だいじょうぶです…」
「なら…」
「わからないです…」
さゆは手で涙を拭うと膝に顔を埋めてしまった。
「ごめんなさい…そんなこと言われたのはじめてで…」
「そんなこと…?」
「私のした事…私が悪いのには変わりないのに、そんな風に言ってくれて…イタチくんのことも…私の恋人として言ってくれたのも…カカシさん以外にいなかったから……」
ああ。
こいつの耳に入るイタチの話はいつも「一族に手をかけた犯罪者」としてだったのだろう。カカシ上忍はさゆにとってイタチは恩人でもあると言っていた。そんな相手を一概に殺人鬼と言われたらそりゃ殺気も出したくなる。
「…お前は、まだイタチこと好きなんだよな?」
自分でも考えるより先にでた言葉にさゆが頷く。
声を押し殺して泣いているその肩に気付いたら手が伸びていた。
「……イタチくんに…会いたい……。」
自分の手が肩に触れる寸前。
搾り出されたその言葉は酷く弱々しくて、なぜだか胸がチクリと締め付けられる。
伸ばしてた手は拳を握り、静かに戻すしかなかった。