第11章 五里霧中
「初対面、だよな?」
「…はい。その節はどうも….」
「待て、その、確認したい事があって…」
さっきよりも歯切れが悪い。
なんだろうか、何ともない不安が浮かぶ。
「あの日、うちはイタチの事で火影室に来たんだろう?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「うちはイタチ」
あの日以来、彼の名を他の人からその名を聞くだけで黒いモヤモヤとしたものが生まれるようになった。
彼を否定しないでほしい。
彼を語らないでほしい。
彼を知りもしないくせに…
「さゆ?」
声をかけられてハッとする。
「あ…はい…そう、です。」
私の顔はよっぽど酷いものだったのだろうか。
ゲンマさんは眉間にシワを寄せて、いつも千本を加えているその口に僅かに力が入れられた。
「あの…」
「悪かった。」
「え?」
予想していなかった言葉に驚き顔を見るとその眉間につくられたシワが濃くなる。
「最近気づいたんだ。もしかしたらあの時、お前はイタチの事を知った直後で火影室に来たんじゃないかって。
そりゃノックなんて構ってられないよな…」
悪かった。
そう言いながらこちらを見る目は難しい顔をしながらも優しいもので、その目から視線をそらせなかった。
この人は今何て言った…?
そうだ。
あの時はノックなんてどうでも良かった。
誰がどんな話をしていようとも、
里にどんな事が起こっても、
あの時の私にイタチくんのこと以上に重要な事なんてなかった。
そうだ。
そうだ。
そうだ。
胸をぎゅっと締め付けたそれはさっきまでの黒いもやもやとしたものとは違う。
気付いたら涙が出ていた。