第1章 水蜜桃の未来
童女では遥か届かない棚の中に入っているらしいお目当てのビスケット、取れない取れないと童女は話しつつ、脚立を使うのを拒否して青年に頼んだ。青年自身脚立は危ないかもしれないと落ちた時に構えるようにはしていたのだが、自分が良いと真正面から言われて嬉しくないと言ったら嘘になる。童女の根強さに負けてパタンと本を閉じ机の上に置けば、傍目にもハッキリと分かるほどに童女はニコニコ嬉しそうに笑って青年の傍に寄った。童女よりずっと背もあり手も長い青年にかかれば戸棚に手を伸ばすなど朝飯前も同然、
「だいちはおっきいもんね!でもかつろうもおっきいんだよ!すがさんも!」
現在仮装パーティーに参加している彼等の名を童女は嬉しそうに紡いだ。ビスケットを渡せば嬉しそうに一つを口に運び美味しいとニコニコまた笑う。はしゃぐ童女に微笑ましい気持ちになりながら、青年はビスケットの箱を童女へと渡した。キョトンとする童女に「菓子は手に入っただろう?そろそろ戻らないのか?」問えば、ふるふると童女は髪を揺らす。
「だいち、いっしょにいくんだもん。だいちもいっしょにいくから、まだいかないの」
次にキョトンとなるのは青年の方だった。そんな青年をじっと下から見つめる童女、視線が何を訴えるかは目に明らかだ。自分と一緒にお祭り騒ぎとなっているだろう仮装パーティー会場に行くつもりなのだろう、童女は初めからお菓子への期待半分此方を半分として来ていたのだから、お菓子を貰ったとしても青年を連れて行くという事は一つの目的でもある。