第1章 水蜜桃の未来
本日十月三十一日、諸聖人の祝日の前夜の祭りだ。本場の地はアメリカ、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す古人ケルト人の祭りが起源。ジャック・オ・ランタンや南瓜の提灯がちらつくアメリカ、現在は日本だが。各々お化けに仮装した子供達がお決まりの台詞と共に菓子を貰う行事でもある。仮装は様々。主に魔女やミイラ男、ドラキュラ等が代表的だろう。お菓子をくれれば悪戯はしない、お菓子をくれなければ悪戯をする。子供のうちだけに限られる、子供にとってはお菓子を貰える嬉しい日なのだ。貰えなかったら貰えなかったで好き勝手悪戯が出来る、これほど楽しい日も少ないだろう。童女も逆らう事無くこの祭りに参加しているらしい。そういえばと青年は思い出す、ハロウィンに仮装パーティーをすると誰かが言っていたなと。童女はそれに参加しているのだろう、頭には大きな尖がり帽子を被っていた。伸ばす両手、片手にはしっかりと可愛らしいステッキが握られている。ふわりと揺れるスカートの上に魔女だと思える黒いコートを羽織って、手を伸ばす。可愛らしく微笑ましい光景に見立てた女性は他の彼等に自慢してみせたものだ。柔らかく細い黒髪は帽子で隠れないよう低い位置できゅっと結ばれている。くりっとした目は今は嬉しさや楽しさで輝き、ピンク色の唇はニッコリと笑みを浮かべている。誰が見ても可愛らしい仮装した魔女だと思えるだろう。青年は確かに彼等が大事に大事に傍におくだけあると頷きつつ、棚を指差した。
「たな、とどかないよ!」
「脚立を使えばいいだろう、そこにある。」
「や!だいちがとって!」
「俺は本を読んでいる。大体仮装パーティーに参加していない。」
「や!だいちもいっしょするの!」
「仮装して何になる?第一俺はもう子供という年齢ではない。」
「いーの!ね、とって!みんなのとこいこうよ!ごほんはこんど、ね!」
「…ふぅ。お前は仕方ないな。」
「だいちがいっしょならべつにいいもん!ビスケット!」
「分かった分かった、少し落ち着け。」