第1章 幸せの黒猫
足音をたてず、颯爽と歩くクロスケ。
トトロのメイを思わせんばかりの好奇心で後をつける私。
しばらく歩くとクロスケは猫専用に作られた入り口から建物の中に入ってしまった。
(ここがクロスケのお家か〜)
(ってお家?なんか会社みたいだけど)
「お嬢さん、ウチに何か用事ですか?」
男の人に背後からいきなり声をかけられ肩をすくめる。
「あ、いや、ごめんなさい、用事じゃ無いんです。」
顔も見ずに頭をさげる。
(手元にセカンドバッグ…)
(ヤバイ人かも…)
「なーんや、面接の子か思ったけどちゃいますか。しっかしおっそいなぁ。」
(ん?面接って言ったこの人…?)
「あの〜〜、面接って仰ってましたが、求人してるんですか?」
関西弁のお兄さんに尋ねてみる。
「ちょっと欠員が出てしまってね。困ってんねん。」
「私を雇っていただけますか?」
ダメ元で聞いてみた。
いつまでもバイトしてるんなら故郷に戻ってこいって親がしつこい。
(神様どうか!)
「え?働いてくれる?ええの?」
「え〜?!働かせてくれるんですか?面接とかしないんですか?え?え?」
まさかの反応にパニックになる。
男の人も軽く取り乱してる。
「あ、そうや、面接な。そうやそうや。今時間大丈夫?
っていうか、何の仕事が分かってるの?」
(しまったーーーーー!何の職種なんだ!!!?)
「すみません、何のお仕事なんでしょう…」
働かせてくださいと言った手前後に引けない。
後悔してしまったが、これはチャンスかもしれない。
「一応広告代理店やね。その道の経験は?その前に名前教えてくれる?」
「久野です。…経験はありません。」