第2章 指先の赤ペン
(ちょ、待って待って待って待って!)
(ヤバイヤバイ待って待って)
思考回路は完全に停止。
湯気が煙に変わる。
「おいヤス、その辺にしといたれ。」
背後から低めの声がした。
首に巻き付けられていた腕が解かれる。
「あ、課長おはようございます!見てみて昨日言ってた女の子!」
肩を掴まれくるりと回転させられた。
振り向けばなんと、駅で見かけてオロCの人だった。
課長と言われたその人は大きな瞳でつま先から私の目まで見た。
吸い込まれそうで身動きが取れず、一瞬視線が外された時にやっとご挨拶ができた。
「初めまして、今日からお世話になる久野です。よろしくお願いします!」
「おぉ、先ずは入り。」
ドアを開けてアゴで中へ促される。
横でしょうたさんがどうぞというかのように建物の方へ手を向けている。
「あ…ありがとうございます。失礼します。」
頭をちょこんと下げお先に入れてもらう。
「じゃあ次僕〜🎶」
「ヤスは後や。なんで俺がお前のためにドア持とかなあかんねん。」
「ちぇッ。渋やんのケチー!」
テンポよく会話している。
お互いをあだ名で呼び合うあたり、きっと社内環境も円満なんだろな〜と推測する。
やはり人間観察の癖は抜けない。