第9章 失ったモノ
える
しばらくして先生たちが来ると、
及川さんと、岩泉さんが私のことを詳しく話してくれた。
岩「ってことで、えるは声出ないんです。
筆談できるくらい、意識ははっきりしてます。」
武「うん、わかったよ。ありがとう。
これからは僕たちが見るから、部屋に戻っててもいいよ。」
岩泉さんは、難しい顔をして、
一瞬悩むように視線を泳がせると
武田先生を見た。
岩「医務室の前で待ってるのはだめですか。
なかにいれてもらえなくてもいいですから。」
武田先生はキョトンとした顔をした。
先生たちは、武田先生を不安そうに見るが、
武田先生は、ニコニコと笑っていた。
武「岩泉君。ぜひここに残っていてください。
えるも誰か先生以外の人がいた方が
緊張しなくていいでしょう。」
言ったのは自分なのに、信じられないという顔をすると、
ありがとうございますと勢いよく頭を下げた。
及川さんは、
「岩ちゃん残してけば、とりあえずは安心だし、
おれはもう戻るよ。またね、える。」
と言って、ひとり颯爽といなくなってしまった。
閉じられたドアをじっと見つめた。