第9章 失ったモノ
える
その後岩泉さんは立って、
「先生たちに、伝えてくる…」
と言って出て行ってしまった。
及川さんは、ベットから少し離れた場所に
背中を向けて座った。
どちらも喋らずに、なんとも言えないような時間が過ぎる。
私の場合は喋ることができないみたいだから
どうしょうもないけど…
何か書いてたら、気づいてくれるかな、とかも思い、
ペンを取ろうとした。
及「本当に、えるが居なくなっちゃう気がした。」
視線を上げて、伸ばした手を引っ込めた。
及「なんだろな。
えるが目、覚めたってのに
声が出ないとか。
そんなの、ないよね、ほんと。」
そうですね。
みんなに迷惑かけるし、会話ひとつまともにできない。
そんなこと思っていると、スッと及川さんは
大きく息を吸った。
及「えるがここに居たいって、
俺らの側に居てくれるってなら、
どんなこともする。
だから、えるは悪いとか思っちゃダメだよ。」
ピシャリと当てられた。
及「手伝ってもらってるとか、思わないでね。
俺たちが……俺が!そうしたいからさ。」
やっと振り向いてくれた及川さんは、柔らかい顔をして、笑った。