第9章 失ったモノ
える
及「っ……!なんで?なんでなの岩ちゃん!」
私の肩をがっしりと掴みながら
泣きそうな顔で叫ぶように言った。
苦虫を潰したような顔をした岩泉さんは
ただただ私の顔を見ていた。
える(何か、つたえられたらいいんだけど…。)
両手の人差し指で、空中に四角を書いて
次に右手でペンを持つようにして、
何かを書く動作をしてみる。
える(伝わる、かな…?)
岩泉さんは頷いて
岩「紙と、ペンだな。」
コクコクと頷くと、何かのプリントと、
ポケットからシャープペンシルを取り出す。
更にボードのような物を渡してくれた。
小さく頭を下げて、それらを受け取る。
える『心配しないでください。
きっとすぐに治りますって。
だから、安心してください。』
なるべく口角を上げて、笑ってみせる。
それを見ても、眉間に皺の寄った及川さんの
頬をつねる。
口パクで、
える「たーてたーてよーこよーこまぁるかいてちょーん」
小さい時にじゃんけんで2回負けるとこれをやられる遊びがあった。
結局負けが多くて、やる側は少なかったんだけど…
最悪やったのは初めてなのかもしれない
える『こんなのありましたよね?
及川さんにできてよかったです』
にっこりと笑うと、
及川さんはそれを見て顔を伏せた。
及「そんなこと、言ってる余裕なんて、ないでしょ、バカ…」
その声は、少しだけ震えていた。