第9章 失ったモノ
える
どこかおかしいのかもしれない。
どこが、とか、どのくらい、とかはわからないけど、
ずっと寝ていたんだ。
きっとひどい顔をしているんだろう。
寝癖とか、シーツの痕とか……
岩「える」
える「はい?」
また少しだけ表情が引きつった。
及川さんも何かに気付いて離れていった。
岩「お前は、わざとこんなこと、しないもん な」
なんのことだろうか。
岩「えるの声が、聞こえない。」
咄嗟に喉に手をやった。
今まで私の発した言葉は、発したと思っていた言葉は、
頭の中で再生されていただけだった。
私の手からあの温かさがさっと消えた。