第9章 失ったモノ
える
及「やった岩ちゃん!える起きたよ!」
目の前で騒いで、抱きついてきた及川さん
その肩越しに岩泉さんを見ると、
優しい笑顔を向けてくれた。
及「ホントに、ホントにえるだよね!」
その勢いに圧倒されながら、コクコクと頷く。
及「ありがとう、える。
また、俺たちのトコに戻ってきてくれて。」
あまりにも優しい口調で言うものだから、
なんだか泣きそうになってしまう。
なんとなく、自分の手を重ねると
触れた手は温かかった。
そして驚いた。
(自分の手も、あったかい。)
きっと及川さんのことだから、ずっと手を握っていてくれたのだろう。
あの温かさはきっと彼のおかげだ。
「ありがとうございます」
私がそう言うと岩泉さんはすごくハッとして、
焦燥とした顔で立ち上がった。