第9章 失ったモノ
える
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
お皿をしっかり、キッチンに置いてくると
「お前には、言ってない」
と言って、卵を作ってくれた人やこめを作ってくれた人に、
感謝を言ってるのだと、ベラベラと
話し始める。
いつものように、うんうん、
と聞き流していると、
「まぁいい。次はお前の部屋だ。」
また、どこからともなくいつものあの本を出す。
「鍵がかかってて、入れないよ」
そんなの関係ない、とでも言うようにスタスタと
歩いて行ってしまう。
小さく息を吐いて、仕方がなく後を追う。
「どこが鍵がかかっているだよ。
開くだろ、この程度。」
彼がドアを引くと、いとも簡単に開いた
「私の時、開かなかったのに…」
「あぁ、まだ無理だろうな。」
私の手をぐっと引いて、
手首のあたりに中指と人差し指で
円を描くと、そのまま部屋に引く。
「 ? 」
少しだけ首を傾げる私を無視して、
「ふーん、ここか。」
なんて言って、勝手に引き出しを引いたりする。
「あぁっ!それは、こっち。
出したものそのまま置きっぱなしにするのもやめてって!」
制する声も聞かずに、棚の中の物出す。
「あ、あった。」
「何があったの。」
片付ける手を止め、振り返ると、
厚い本を手にとっていた。
___みたことがある?
「……余計な事は思い出さなくてもいいんだ。
大事な事だけ、覚えとけ。」
「 ?…うん。 」
少しだけ、力の入った物言いに
ピリリと頬に緊張が走る。
それでも彼がふとこちらを向いて微笑めば、
そんな緊張は飛んで行く。
「俺の手が届くまで、待ってろよ、ちゃんと。」
なんでそんなことを言うのだろう。
こんなにも近くて、手だってちゃんと届くのに。
「もう覚えてないかもしれねぇかもだけど
ちゃんと近くにいっからな。」
そして彼は真っ直ぐに私に手を伸ばして、
拳を固めると、また直ぐに開く。
すると、強烈な向かい風が吹いて
私の身体を彼から遠ざける。
必死に手を伸ばしても、彼はその手を取ろうとも、
その場から動こうともしなかった。
彼の口が動く。
風の勢いで言葉は聞こえない。
________大丈夫。きっと大丈夫。
そう言い聞かせると、暗闇に落ちていった。