第6章 距離感
及川
部屋を出たら、目があった。
及「あぁ、おはよう。岩ちゃん。」
岩「おう。」
及(何にも、言わないのかな…?)
返事だけして、ただ隣を歩く彼に違和感を覚える。
及「朝ごはんなんだろね〜」
岩「さぁな」
そっけない反応が面白くなくて、
それ以上話しかけなかった。
広間に着けば、普通にみんなに挨拶してるし、
気になることもなかった気がした。
えるにも普通だったし、
なんだか、岩ちゃんに対する反応が
やたら明るくて少し妬いたけど。
岩「置いてくぞ。早くしろ。」
ドアにもたれ掛かりながら、
俺を急かすのもいつもの光景。
鞄を手に持つと、少し早めに行くのもいつも通り。
あくまでも、触れない気だ。
俺は心を読めるわけじゃないけど、
相棒の思ってることくらい見当がつく。
及「…ねぇ、岩ちゃん」
岩「なんだよ」
及「なんで聞かないの?」
岩「………。」
何にも返ってこなかった。
そのまま学校への道を行く。
岩「お前も聞いてこねぇだろ。」
及「……気づいてたの?岩ちゃん」
岩「………。」
また沈黙。
そっか、岩ちゃんは俺が見てたの知ってたんだね。
及「うん そっか」
岩「お前こそ、聞かないのか」
及「ん…まぁね」
岩「そうか」
短いやり取り。
暴言も暴力も飛んでこない会話。
真剣な、大事な会話。
たったこれだけの会話なのに、
まだ出会って数日しか経ってあの子のことを話すと
こんな感じになるんだ。
俺も、岩ちゃんも、本気になっちゃってるのかもね。
「なんでだろうねぇ…」
呟いた言葉は、ただ空に消えてった。