第6章 距離感
える「…英語、嫌い。」
課題とにらめっこしているえる
える「外国に行かないし。外人さんと話す事なんて滅多にないし。もしあったら、ジェスチャーでなんとかするし。翻訳機使うし。」
なんて、英語ができない理由を並べる。
える「できたらかっこいいよ?でも、筆記しろと言われ、できる人とできない人がいるのだから、無理にやらせなくてもいいのに。」
もう、英語ができない怒りなのか、
課題を出す教師に対する怒りなのか
わからない。
でも口に出さずには居られないのだ。
コンコン
ドアを叩く音に振り向く。
岩「える、いるか?」
振り向いた拍子にペンか落ちた。
息を呑んでやり過ごそうとか思った自分が馬鹿でした。
える「はい、います。開いているので、どうぞ。」
それを聞いた岩泉さんは、部屋に入った。
椅子を引いて、座る様に催促する。
える「コーヒーとか、飲まれます?でも、夜だから…お茶ですかっ?」
必死に言葉をつなぐ。
怖かったから。
岩「悪い、頼む。」
岩泉さんも、遠慮せずにそう言ってくれた為
お茶を淹れる。
岩泉さんの前にお茶を置き、
岩泉さんとの反対側の前の席に座る。
岩「…あのな、える。昨日の…」
昨日、という単語にピクリと反応を示した。
それを見て少し岩泉さんの目に、
少しだけ迷いが混ざった。
触れてはいけないものに触れる様な、迷い。
お互いに、避けていたであろう話題だ。
岩「お前は、しっかり、覚えてるんだな…。」
何も返事を出来ないでいると、
岩「悪かった。すまない。」
頭を下げられた。
える「私も、危機管理能力がないというか…」
岩「いや、どうかしていたといえど
お、押し…倒す、事などよくなかった。」
える「頭を上げて下さい。」
岩泉さんは顔を上げて、こちらを見据えた。
一口だけお茶を口にすると、
える「お互いさま、という事ではダメですか?」
面と向かってあんな風に謝られたりする事なんてなかったから、
どうしていいかわからない。
だから、打開策として提案したのだった。
納得のいかない表情だけど、何度も私がそう言うと、
しぶしぶわかってくれた。