第1章 始まりはあの日から
ボクは涙し、恐怖した。
床に伏した姉さまの姿が、幼いころなくした母の姿と重なったからだった。
自分でも心がコントロールできず、泣き暮らした。
そんなボクを、椿姉さまはあやし、慰め、支えてくれていたが、それでもボクは泣き止むことができなかった。
だから気づかなかった。
椿姉さまが何やら決意していたことに。
泣き暮らしてどれほどの月日がたっただろうか。
暑く虫のうるさい季節、楓姉さまが逝った。
静かな寝顔だった。
椿姉さまと一緒に泣いた。
声がかれるほどに泣いて泣いて、泣き伏した。
そこに、落ちてくる声。
「おやおや、ここにも神に家族を殺された哀れな家族がいますネ♡」
見れば、シルクハットをかぶったでぶっちょなおじさんが一人。
昔クロスが言っていた。
こんな格好のやつに気を付けろという男の特徴にそっくりだ。
クロスが言っていたその男の名前は……
「千年伯爵……」
人の魂と悲劇を材料にAKUMAを製造する。
呆然とつぶやくボクに、伯爵はにぃっと笑みを浮かべる。
姉さまは、小さくこぶしを握るとキッと伯爵を見据える。