第1章 始まりはあの日から
そんなクロスの後ろ姿にふと思い出すのは、もう記憶のかなたにほんのりとしか残っていない、父の面影だった。
この三年間がきっと三人で過ごした一番の思い出だろう。
なぜなら、クロスが去って一週間後楓姉さまが病に罹ってしまったからだ。
医者にはもって三年だと言われた。
このとき、ボクはもう8歳になっていた。
楓姉さまは椿姉さまに言っていた、どうかあの子を頼むと。
いつもいつも寝る前に言っていた。
楓姉さまの病発覚から、一年と半年たったある日、クロスがやってきた。
姉さまたちはとても喜んだ。
クロスも歓迎されてうれしそうな顔をしていた。
ボクもその光景がなんだか無性にうれしかったことを覚えている。
その時はクロスは三日で出て行ってしまったがそんなひと時でも、姉さまには良い思い出になったようだった。
そして、ついにある日楓姉さまが危篤状態になった。
その日は、医者に言われた三年の月日を一年も超えた日のことだった。