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ボツ小説集

第1章 Oxymoron(東京喰種/相手無)


夢主はそんな切羽詰まった金木の反応に笑いを零す。若くて可愛い青年が、怯えながらも自分が差し出した飲み物を頑張って飲み干す姿はどこか母性本能をくすぐる。けれど私情はさておき、彼女は金木に感想を求めた。

「味はどう?」

「なんか……青汁みたいな味ですね」

「へえ、青汁ってそんな感じなんだ」

興味深い、とでも言うように、夢主は何やらパソコンに入力し始める。何の作業かは金木に測りかねたが、一つの疑問を尋ねるだけなら大丈夫だろうと、金木は彼女に遠慮がちに問うた。

「あの、これって?」

「ああ、それは母乳よ。人間の母乳」

「ぼっ!?」

思わぬ返答に金木の体がビクついた。牛乳のようではあるとは思ったが、まさか人間の物だとは予想しなかった。味も苦味の含まれた青臭い物だったので、牛乳のイメージから遠はざかっていた。それがよりによって赤ん坊の飲む物だと知ると、恥ずかしさが更に金木を襲う。しかし夢主は金木の羞恥心に目もくれず、先ほど鞄から出したパンフレットを二枚手渡す。反射的に受け取った金木は、片手に空のパウチ容器を手にしたまま、両方の印字に目を通した。

「母乳バンク……と、オクシモロン・プロジェクト?」

声に出した読み上げたタイトルは、どちらも奇妙な響きを成していた。かろうじて母乳バンクの方は憶測が可能だが、もう片方の オクシモロン・プロジェクトはさっぱりである。だが彼の混乱をよそに、夢主は説明を流れるように始めた。

「母乳バンクは名前の通り、ボランティアで提供された母乳を保管する機関の事。世の中の乳が出ない母親の代わりに、赤ん坊に母乳を与える為のシステムなの。粉ミルクでは補えない必要な栄養素を赤ちゃんに届ける、大事な機関よ。パンフレットは母乳の募集を呼びかける物なの」

彼女の言うように、ニュートラルな淡い黄色をベースに印刷されたパンフレットは、愛らしいイラストと共に母乳の重要性を訴えている。何となくテレビでも見聞きしたような内容に、金木はただ情報を受け入れ、どちらかと言えば説明の欲しい別のパンフレットに目を向ける。夢主もそんな彼を察し、テーブルの下で足を組み替えて説明を続けた。
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