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ボツ小説集

第1章 Oxymoron(東京喰種/相手無)


「これ、飲んでみて」

差し出されたのは中身の入っているパウチ容器。四角いアルミ加工のされたそれは、よくスーパーで見かけるゼリー飲料の入っているアレである。けれど不安なのは、差し出された飲み物には化学記号を印刷された白いラベルが一枚だけ貼ってある事だ。見知らぬ組み合わせの化学記号に金木は怪訝な顔を浮かべる。一瞬、芳村の方を伺うが、残念ながら彼は背を向けてカウンター奥の片付けを続けていた。他の従業員に関しても同じくで、誰もが金木と夢主の会話に疑問を抱いていない。仕方なく、恐る恐る差し出された飲み物に手を伸ばす。物がちゃんと相手に渡ったのを確認すれば、夢主は椅子に寄りかかって足を組み、金木の挙動不振な様子をじっと伺った。

まだ開けられた事のないフタを捻り取り、金木は容器の中を確認しようとする。しかしプラスチック製の飲み口からは確認しづらい。小さな穴から覗くも、中は影になって液体の色すら見えなかった。それならばと、金木はゆっくりと容器を握る。圧力を少しだけ加えれば、中の液はすぐに顔を出した。色はクリームっぽい白。とろみが僅かにありそうな、牛乳に近い印象を受けた。人間としての感覚で見る限り、美味しそうではある。だが怖いのはここからだ。

今の体は人間食を受け付けない。幾度も己が人間であると証明したくて人間の食事に手を出したが、最後は吐き気に襲われるだけだった。目の前の女性が自分を苦しめる存在であれば、そもそも店内には招かれないのは理解している。けれども、人間の血肉以外を差し出されて戸惑わない彼ではない。それでも、金木に与えられた選択肢は無いに等しい。紹介された時に言われたように、彼女が「助け」である事を信じる他なかった。

ゆっくり、ゆっくりと飲み物に口を近づけ、飲み口が唇に触れた瞬間、金木は一気にゴクリ、ゴクリと喉仏が上下に動くのを意識しながら中身を飲み干した。全てを飲み終えた直後に息を大きく吐けば、金木は緊張のあまり息をしていなかった事に気づく。まるで酒を一気飲みした居酒屋のおじさんみたいな息の吐き方で、恥ずかしさから頬を赤らめてしまった。
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