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ボツ小説集

第1章 Oxymoron(東京喰種/相手無)


「初めまして、金木君。どんな子かと思えば、また随分と若いのね」

周りで従業員が喫茶店「あんていく」の閉店作業を忙しなく行っている中、店内のテーブルを一つ挟んで金木は女性と向き合っていた。

女性を店長である芳村から紹介されたのは数秒前。店の看板を片付けた後に現れた彼女は何の戸惑いもなく入店して、芳村に挨拶をする。その時バイト中だった金木は、一緒に働いていた他の従業員の落ち着いた様子から見て、女性の存在を気にしていなかった。芳村の知り合いであるらしく、二人の世間話に水を差さないよう、そのままテーブルを濡れた布で綺麗にする作業を進める。

けれど掃除もそう進まない内に、彼は店長から声をかけられた。一言「君の助けになる人だ」と女性を顔を合わせられ、店内のスペースを利用するように伝えられる。そして初対面の彼女と何故か話をする形となった。

「私の名前は夢主。芳村さんから事情を聞いて、貴方に被験者として参加してもらいたいプロジェクトを持ってきたの」

被験者、参加、プロジェクトと、何やら怪しげな単語をいきなり連発してきた彼女に、金木は僅かばかりの疑惑と警戒心を抱いた。素直に強張る体は、彼自身に更なる緊張感を与える。両膝の上に置いていた手は知らずの内にエプロンを握りしめ、制服にシワを刻み込む。

その反応は致し方ない事だった。女性の匂いは金木の食欲をそそらない。つまり、彼女はグールだ。ほんの数日前、優しく金木の相手をしてくれていた月島が金木を食そうとしたトラウマがある為、例え芳村の紹介でも、新しいグールと知り合うのには抵抗があった。ただ、唯一の救いは此処が味方のいる空間である事だ。恐らく店長も金木の心境を考慮して、場所を仲間に囲まれている店内にしてくれたのであろう。

けれど相手は臆する金木に気付きながらも気にした様子はなく、かけているメガネをスッと指で位置を直し、手に持っていた大きめな革鞄から15インチのパソコンとパンフレットのような紙類をテーブル上に広げてゆく。パソコンの電源を入れれば、起動している間に更に何かを別ポケットから引っ張り出し、それを金木に突き出す。
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