第9章 どんぐりの背比べ
「そうだよ…そうすりゃ流石にこいつも手ェ出せないし。」
「そうしよっ」と言いながら白澤様がケータイを開きコールをかけ始める。
え?
あまりにも突然すぎて、流石に俺も鬼灯様も驚いてリアクションをするタイミングを逃してしまった。
そんなケロッとってか…
「ちょっと待てばか…」
「あ、もしもしさゆちゃん?あのさ、僕と結婚しない?」
…………………
静まり返った個室で、一瞬時間が止まった。
白澤様は携帯から耳を離し、それを一瞥してからこちらへ顔を向けた。
「………無言で切られた。」
「そりゃそうだわ!!!!」
「逆に凄いですね…」
「なんで〜?」とか嘆いているけどなんでじゃねぇよ。
「はぁ……なんかさゆちゃんのことを真剣に考えると鬼灯様の方が良い気がしてきました。」
「えっ。むしろ桃太郎さんは白澤さん側だったんですか?」
ため息混じりの俺のぼやきに、日本酒を口に含んでいた鬼灯様が眉間に皺の寄った顔を向けてくる。
ごめんない。そうじゃなくて。
「俺はあくまで中立です。ですけど、さゆちゃんと白澤様が別れたら職場の空気的にアレなんでと思って…でもコレですからね。」
「コレってなんだよコレって。」
「こんなかる〜くプロポーズしちゃうような奴ってことですよ。」
「えっ?全然軽くないじゃん。桃タローくん僕が誰にでもすぐプロポーズすると思ってるの?しないよ?」
鬼灯様と思わず無言で目が合ってしまった。
「いや嘘でしょ。」
「ホントホント。神様嘘つかない。僕がプロポーズしたのは紀元前から存在してきて今の今までさゆちゃんだけだよ?」
……………
再び鬼灯様と視線が重なる。
これは……
「重いですね。」
「そして軽い…」
「どっちだよ!!!」
どっちだよはこっちのセリフだ。
散々女の子を口説いてきたチャラ男が、というか紀元前から存在してきた奴の初プロポーズとか重いし、それにしては仕方が明日暇?みたいなノリってどう考えても軽すぎる。
「どっちにしても、さっきのでたぶんさゆちゃんには誰にでもホイホイ求婚する奴だと思われましたよ。」
「えっ?!なんで?!」