第13章 愛しい人へ(後編)
「遅くない?」
「そうですか?」
時計は夕方の6時を指している。
愛しの彼女は先日の礼をしたいと僕の酷く嫌いな鬼と2人で出かけている。
本来ならばあいつに1人で会いにいくなんて嫌だし全力で止めるところだけれど、真正面からとても真剣な目で頼まれたんじゃあ断れるわけもない。
しかしだ。
「いややっぱり遅くない?出てったの13時ごろだよね?そんながっつり出かける?」
「買い物でも行ってるんじゃないですか?」
「そんながっつり出かける??」
お礼だなんていうから確かにご飯食べに行ったりはあるかもしれない。けれども5時間も何話すわけ?彼氏でもない相手と?女同士でもあるまい間とか持つの?
貧乏ゆすりをする僕といえば「そんなに落ち着かないならこれ混ぜてください。」と固めの材料をひたすらすったり砕いたりしている。もうこれで5個目だ。
「もうダメ!迎えに行ってくる!」
「いやホント今回は大事な感じだから邪魔すんなよ!空気読め!」
「読まないね!!速攻見つけて邪魔してやる!」
「空気読んでください。」
桃タローくんに腰回りを押さえつけられるのを振り払おうとしたところである意味聞きまちがえる事のない声がドアから届けられた。
「遅くなってしまってごめんなさい。地獄でしか買えないお酒とか色々あってテンション上がっちゃって…」
待ちわびた彼女は申し訳なさをにじませているが、それ以上に自分の両手にある荷物と横の鬼に持たせている荷物の中身に高揚しているのがありありと見て取れる。
「そんながっつり出かける?」