第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
「……本当に、死んでから誰にもしてなかったんですか?」
目をじっと見ながら質問すれば、さゆさんがおずおずと首を縦に動かす。
「桃太郎さんにも?お香さんにも?」
いえすいえす
「……白澤さんにも?」
いえす。
はぁーーーーともう一度深く息を吐き手を放す。
「あの…鬼灯さま…?」
「…白澤さんには、今日のことはご内密に。多分すごくお怒りになるので。」
下手したら本気で貴女に会えなくなるんで。
「はぁ…分かりました。…それであの…本当に…」
「謝らないでください。」
もう一度、彼女の目をしっかりと見つめる。
「嬉しかったんです。」
なんであれ、貴女にとっての1番をもらえた事が。
白澤さんでも、他の誰でもなく、私に1番にしてくれたことが純粋に嬉しかった。
そんなことはさすがに言えませんけど。
「また今度、お願いします。何なら私で練習してください。」
「…っはい!」
できるだけ優しく聞こえるようにそう言えば、さゆさんはまた、いつものふわりとしたような笑顔で笑う。
さっきの怯えた表情も個人的には好きですけど、やっぱりこの笑顔が彼女には1番似合ってますね。