第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
「片付け、手伝わせてしまってすみません。」
「いえいえ。私もいっぱい投げましたから。」
チョコ撒きが終わってから、今は床に散らばったチョコを集めている。
さゆさんは帰ってもいいと言ったが獄卒たちも忙しいだろうと手伝ってくれている次第だ。
「でもこんなにたくさんのチョコ、なんだかもったいない気もしますね…」
「ご安心ください。ゴミとチョコを取り分ける作業を亡者にさせてあとで私用にチョコ風呂を作ります。」
「予想外の再活用…!!」
「チョコ風呂ってユ●ッサンにありましたね〜懐かしいな〜〜」と現世の娯楽施設の話をしているさゆさんを見て、そういえばこの人も亡者だったんだなと思い出す。
さゆさんは特にこれといって良し悪しもない、一般的な善人と言ったところだったはずだ。悪いといえばその享年だろう。
20代半ば、若くして亡くなった人。
彼女が亡くなった時、恋人はいたのだろうか…
「鬼灯さま」
リンと、鈴が鳴るような声。
「なんでしょう。」
「この後、お時間あったりします?」
これは…ひょっとして………
今日は2月14日。
男も女も、鬼でさえ浮き足立つバレンタイン。
……まて、期待をするな。
彼女には恋人がいる。
「……10分程度なら」
休憩がてらになら
「その貴重なお時間、私が貰えたりしますか?」
「ええ…」
大丈夫ですよと答えれば彼女は嬉しそうに微笑んだ。声は震えていないだろうか?
何があっても日頃のお礼だ。
忘れるな。
そうはいっても高揚する気持ちは仕方ない。
ひとまず今は、白澤さんの邪魔が入らないことだけ祈りましょう。