第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
時間がゆっくりと流れ、音が消える。
そんな風に見える世界で、さゆさんがこちらへ振り返った。
「…今の、鬼灯さまですか…?」
後頭部を抑えキョトンとした顔でさゆさんがこちらを見る。
届いた。
「ええ。」
他でもない、私ですよ。
「楽しんでますか?」
「はい!凄く楽しいです!」
さゆさんがにこっと笑う。
その姿は本当に楽しそうで、こちらまで口元が緩む。
そして同時に、胸が締め付けられるような感覚を得た。
さゆさんは私が声をかけるためにチョコを投げたのだと思っているのだろう。
それでいい。それでもいい。
それが私からの物だと、さゆさんが気付いてくれた。