第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
きっとチョコを投げた相手も、そうやって目に入ってくるうちにさゆさんに惹かれていったのだろう。
眼が覚めるような美人というわけではない。
どこか妖艶な雰囲気がある訳でもない。
だとしても、
あの柔らかな笑顔に
白澤さんへ向ける他とは違う表情に
目を奪われたのは私だけではないようだ。
もし、私が以前のように、さゆさんをただの友人として見ていたなら、投げた相手の事を「悲しい恋をしていますね。御愁傷様です。」なんて思ったのかもしれない。
それが、今の自分だ。
この気持ちも、さゆさんに届く事は無いのだろう。
叶わないと、敵わないと知っていて、思いを伝えるのは、今の関係が、少なくとも良く無い方に変わってしまうことを意味する。
それでも、
この気持ちをどうにか伝えたい。
きっとそう思って投げたのだろう。
チョコに当たったさゆさんは少しキョロキョロと周りを見たが流れ弾だろうなと首を傾げていた。