第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
バレンタイン当日。
チョコまき合戦の10分ほど前にさゆさんがパタパタとやってきた。
「鬼灯さま!」
「さゆさん、こんにちは。」
さゆさんは私の準備したチョコの山を見ると「あ、本当に投げるんですね。」と微笑んだ。
「…参加しますか?」
「えっ?良いんですか?」
なんだか子供のようなキラキラした表情でチョコを見ていたのでそれとなく聞いてみれば、声のトーンを上げて、それはもう嬉しそうな顔でこちらを見てくる。
こういうの、好きなんですね。
「良いですよ、ただ危ないと思ったら退場してもらいますので、できるだけ私の近くにいて下さい。」
「はい!」
他意はない。
分かってはいるけれど自分の近くにいることをそんな笑顔で了承されるのは中々に気分が良い。
「あれ?さゆさんも参加するの?」
ふいに声が聞こえ、顔を向けると茄子さんとそれに続いて唐瓜さんがやってきた。
そろそろ時間ですね。
「うん、特別参加させてもらいます。よろしくね。」
「ではそろそろ説明をするので、茄子さん、唐瓜さん、さゆさんのこと、とりあえずお願いします。」
「分かりました!」
「はーい!さゆさん!行こ!」
「うん。じゃあ鬼灯さま、また後で。」
「はい。」
3人がワイワイと獄卒の集団の中へ消えていくのを見送る。
さゆさんとタメ語で会話をする茄子さんは正直少しだけ羨ましいなと思うことがある。私自身、基本敬語での会話が楽なのですが、なんというか、さゆさんからタメ語で話しかけられるのってどんな感じなのか少し知りたいと思ったり。
まぁ、たまに崩して話したりもしますけど…
ハッと我に帰る。
また考え込んでしまった。
いけないいけない…
「はい!皆さん、こちらを向いてください!」
自分の気を引き締めるのも含め、パンパン!と手を叩いた。