第8章 バレンタイン特別短編(鬼灯)
「では明日、14:00に。お香さん含め獄卒には全員参加してもらうのでそのつもりで。」
「ええ、分かりました。」
お香さんがふわりと微笑む。
2人の女性がふわふわにこにことしているこの空間は中々に心地いい。
このままお茶でもすすりたい…。
そんなことをぼんやり考えていたがさゆさんは時計をみると「あ、やばい。」とつぶやいた。
「そろそろ私休憩上がるんで帰りますね。」
まぁ…そううまくいきませんよね。
そもそも私も仕事中ですし。
「さゆさん、一応これまだ公表してないので御内密に。お香さんも。」
「了解です。お香さん、本当ありがとうございました!鬼灯さまも、また明日!」
「どういたしまして。また明日ね。」
笑顔で手を振り去っていくさゆさんに、お香さん2人で手を振り見送る。
「ふふ、さゆちゃん、最近ますます可愛らしくなりましたよね。」
「えぇ、そうですね。」
「明日、バレンタインでしょう?家で作ると白澤様にバレちゃうから作りにいらしたんです。」
「……そうですか。あの白豚には本当に勿体無いですね。」
「相変わらずね〜」と笑いながら言うお香さんの耳はひどくボヤた音で耳に入った。
そうか。
様子を見る限りでは白澤さんは私がさゆさんに好意を持っていることは言っていないようだ。
それについては正直安心したが、
とはいえ…
そうか。
改めて2人は恋人なんだなと思う。
白澤さんがさゆさんを想っているのはもちろん、さゆさんも白澤さんを想っているのだと。
当然といえば当然だ。
でなければあんな浮気神獣、とっととフラれているだろう。
「鬼灯様?」
お香さんに声をかけられてハッとする。
慣れない感情とはいえ、こんなに人前で気を抜いてしまうのはマズイな…。
「いえ、では私もこれで、失礼します。また明日。」
「ええ、また明日。」
お香さんは何も聞かない。
……バレてないですよね?
ぺこりとお辞儀をし、にこにこと笑いながら手を振ってくれるその姿に背を向けると閻魔殿へと足を進めた。
本当に、厄介ですねこれは。