第6章 隣は友人、彼氏は物陰
「私と会うときはまたつけてきてください。」
「えっ見たいっていうか えっ簪…です…よね?」
さゆさんが簪にそっと触れる。
「ありがとうございます……簪って自分じゃ悩んで結局買わないで帰ること多いんで…鬼灯さまが選んでくれたの、嬉しいです。」
「……いえ…」
いつもより優しく、嬉しそうにふわっと微笑むその笑顔に思わず息を飲んだ。
心拍数が上がる。
気持ちを落ち着かせるために深めに息を吸いゆっくりと吐く。
「あのバカ神獣はまだ渡せてなかったんですね…」
「えっ?」
半ば呆れてボソッとそう言うとよく聞こえなかったらしく聞き返されるが、ここで話に出す必要もないなと思い「いえ」とだけ答える。
「そろそろ時間ですね、行きましょうか。途中まで送ります。」
肥料を受け取ろうと手を伸ばすと「あ、これは私が持って行きますから!」と断られる。
「女性に荷物を持たせる訳にはいきません。」
「いえ、お礼なのに結局今日もいろいろお世話になっちゃいましたし。」
「………あなたごと担ぎますよ?」
「ごめんなさい。お渡しします。」
自分からしたら5kgなど大した重さではない。
渋々といった表情のさゆさんから肥料を受け取る。
「お気持ちだけ受け取っておきます。」というと「それはどうも」と今度は少し困ったように笑う。
ああ…これはちょっと困ったことになったかもしれない。
さっき彼女に触れた手が今更あつい。