第6章 隣は友人、彼氏は物陰
「……?なんか今……」
「なにか?」
「いえ…」
さゆさんは一瞬振り返ったものの、自分の影で後ろの2人には気づかなかったようだ。
少しだけホッとする。
さゆさんと2人でいるこののんびりとした時間をよりにもよってあのバカ神獣に邪魔されるのは喜ばしくない。
店から出る時に背に触れた手はずっとそのままという訳にもいかないので放してしまったが感覚が妙に手に残っている。
「あ、ここです。金魚達の肥料を買いたくて。」
「あぁ、あのでっかいやつ…初めて見たとき本当にビックリしましたよ…」
「おひとつ差し上げましょうか?」
「いえ…夜とか怖そうなので…」
「食べても美味しいんですよ。」
「食べるんですか??!!」
「今度ご馳走しますね。」
食べれることがよほど衝撃だったらしく「刺身…?焼き…?」と恐る恐る聞いてくるさゆさんが可愛らしくて眼を細める。
「煮付けにしてもいけますよ。」
「鬼灯さまの金魚愛は生死はとわないんですね。」
そうですねと答えているといつもの肥料を見つけたので持ち上げレジまで持っていく。
レジの横に金魚草をモチーフとした簪が置いてあった。
金魚草のチャームに赤いしずく型のビーズがキラキラとたれていて中々かわいい。
自然と手が伸びる。
さゆさんはというと地獄の珍しい植物に夢中になっていた。
「さゆさん。」
「あれ?あ、もうお会計されたんですね。」
「これ、ちょっと持ってもらえます?」
「えっ?ちょっ?!わっ」
さゆさんの手に無理矢理肥料を持たせる。
重さは5kgほどなので持てないことはないが重いらしく少し前かがみになっている。
「じっとしててくださいね。」
「えっ」
左手で顎を掴み顔を左側へ向かせると右手で簪を髪の結ばれているところへそっとさす。
「えっ鬼灯さま?」
「やっぱり、似合いますね。」
自分の見立てた通り、さゆさんの黒髪に赤い簪はよく映えていて満足する。