第6章 隣は友人、彼氏は物陰
先日のお礼という事でさゆさんに甘味をご馳走になりにきた。
後ろの物陰から付いてきているアホ神獣と巻き込まれたであろうその弟子のことはさゆさんは気づいていないようだし放っておこう。
それはいいとして、これはどういう事だろう。
「甘いものって私は好きなんですけど、白澤さん、辛い物の方が好きらしくて。中々1人でくる気にもなれないからいつも付き合ってもらっちゃって…鬼灯さまへのお礼なのに申し訳ないです。」
「いえ、今詰めてるとどうしても甘いもの欲しくなるので嬉しいですよ。」
「鬼灯さまは本当に仕事熱心ですよね。かっこいいです。白澤さんにも見習ってもらいたいですよ本当。」
呆れるように微笑む彼女はなんだかんだ、やはり白澤の事が好きなのだろう。前々から愚痴は聞くがそれでも突き放すような感じはしない。
いつもはそんな話に同情しながらも惚気られているなとしか思わなかった。
だが今日はどこか違う感覚がある。
「それでこの間、白澤さんと桃太郎くんと…」
「白澤さん、材料の指示を絵で書くから…」
彼女が白澤の名を出すたびに何か引っかかる。
同時に慣れないこの感覚。
以前にも感じた事があった気がする。
たしか彼女と白澤がデートの知らせを自分とお香さんにしてきたあの時だ。
白澤の話をする時の彼女は愛おしさが溢れているようで、美しいと思った。
でもそれはあくまで客観的意見のはずだ。
じゃあこの胸のつかえは何だろう。
昨日は仕事が珍しく早く終わったため、今回は徹夜ではない。しっかりと寝たはず。
「さゆさん。この後、買い物に付き合ってもらってもよろしいですか?」
「はい、それならちょうど食べ終わったし行きましょうか。」
約束通り今日はご馳走になった。
出口の近くに立つと背中に視線を感じる。
「ご馳走様です。では、行きましょうか。」
そう言いながら、ほんの出来心で彼女の背に手を添えながら外へ出た。
後ろからガタッと音がした。