第3章 馴れ初め
「ただいまー………」
中の様子を伺いながら入る。
どうやらさゆちゃんは出かけているようだ。
僕に気づいた桃タローくんがじとっとした目で見てくる。
「…………ゴメンナサイ」
「まだ何も言ってませんけど。」
「…………」
「やっぱり聞いてたんですね。」
「えっバレてたの?!」
「俺はドアの方向いてたんで。」
「ねぇ桃タローくんどうしよぉ??!!」
「知りませんよ!!てかこそこそ逃げてる暇あったら誤解といてあげてくださいよ!さゆちゃんがかわいそうでしょ!女好きに、しかも上司に嫌われてるかもとか考えちゃうなんて!」
「あ…」
なんてこったそこまで考えてなかった…
「あぁもうだめだ……嫌われた……」
「嫌ってるのはあんたでしょ。」
「嫌ってないよ!!大好きだよ!!!やめてよもう!!!!!」
「だったらさっさと誤解解けよ!!」
「だってでも『じゃあ何で避けるんですか?』とか言われたらどうすればいいの?そしたらもう告白しかなくない?!」
「すればいいじゃないですか。散々他の子には言ってたくせに。」
「言えないんだよ!!!どうしても!!!ていうかフラれたらどうすればいいの?!絶対立ち直れない!!!」
思いっきり、お互い一気に言い合ったから息切れしている。
「…はぁ…じゃあ別に告白はしないで『こんなに1人のこと長く一緒にいたこと無いから距離感が掴めない』とか言えばいいんじゃないですか?嘘はついてないし。」
「やばい桃タローくん天才かよ…今度いい子紹介するね…」
「はぁ…この後に及んであんたは…」
「ただいま帰りましたー。あ、白澤さん…おかえりなさい。」
「た…ただいま…」
彼女の澄んだ声に心臓が高鳴る。何とか笑顔を作ってそう言うとさゆちゃんがにこっと笑いかえしてくれた。自分のことを嫌ってるかもしれない僕に対してもやさしい。そんな健気な姿にまた胸が苦しくなる。
言わなくちゃ。
「あ…あの……」
こないだ盗み聞きしてしまったんだけど僕は君を嫌ってなんか無い。ただ一緒にいすぎて距離感が掴めなくなっただけなんだ。
言わなくちゃ。
でも、声に出ない。
言えるだろうか。絶対声裏がえるな。言えたところで信じてくれるだろうか?社交辞令だと思われない?