第3章 馴れ初め
「え?いや、そんなことないよ…そもそもさゆちゃんがここで働いてるのだって僕のナンパがきっかけだし…」
「そうなんですか…?だって他の人は手をとってすぐに口説くのに」
「いや…そりゃ毎日顔合わせてるんだし…」
「あぁ…まぁそうか。」
確かになと桃タローくんは何もなかったように作業に戻る。
そうだよ。毎日顔を合わせているからだ。
そのはず。でも、いつからだ?
いつから僕はさゆちゃんを口説かなくなったんだろう。わざわざ僕から提案して一緒に住んでたのに夜誘ったのだってはじめの1・2日くらいじゃないか…?普通に断られたけど。
手を握ったのもいつが最後だったか覚えていない。
僕から彼女に触れたのは記憶にある限り桃タローくんが初めてここに来たときが最後だ。
ふと彼女の肩を抱いた時のことを思い出した。適度な肩幅、二の腕の感触、髪の香り、僕を見上げる瞳。
ボッと顔が赤くなる。
えっなにこれ…。
じわじわと自分の鼓動が速くなるのを感じる。
「白澤様?気分でも悪いんですか?」
口に手を当て、赤くした顔を地面に向ける僕を見て桃タローくんが心配している。
「…大丈夫…………いや……うん、ちょっと部屋で寝てくる…」
「え?あ、はい。」
ヨロヨロと自室へと向かうが、廊下へ出る前にガラガラと店の入り口を開ける音が響いた。
「ただいま帰りました〜あれ?白澤さん?大丈夫ですか?」
僕を心配そうに見つめる彼女の隣にはなぜかあいつが立っていた。
またもやが生まれる。