第12章 愛しい人へ(中編)
電気をカチリと付けると少し眩しい。
ああ、この部屋、こんな広かったんだ…
「…喉乾いたな。」
冷蔵庫に冷えていたお茶を飲もうと、戸棚からコップを取り出す。
ああ、これ、彼女が気に入っていたコップ。
机には彼女が選んだランチョンマット。
彼女が買って、結局オレが面倒みてる小さなサボテン。
いつも彼女が座る席。
テレビには彼女が嫌いだと言っていたCMが流れ
彼女の好きな俳優のトークショーへと繋がる。
部屋は彼女の影が濃すぎて息がつまった。
この部屋だけじゃない。
オレの見る景色全部、彼女と繋がってるんだ。
俺が殺した。
「…っ」
吐き気がしてキッチンへ駆け込めば、大丈夫?と声が聞こえてきそうで。
ああ、これが人を殺すことなんだ。
ずっとずっと、自分のつくる亡霊に付きまとわれるのだ。
「…いっそ本当に出てきてくれればいいのに…」
彼女はきっと、オレを恨んでない。
恨んでないから、謝ったところで「気にしないで」なんて言うんだろう。
そう考えるとなんだかとても救われて、同時にすごく手応えがない。
持ち帰った遺留品を机に出してみる。
カバン、ケータイ、家の鍵、鏡、タブレット、よくわからないゴミ、彼女のクローゼットの鍵。
そういえば…
クローゼットの中は私が生きてる間は見ちゃダメなんて鍵をかけられていたんだ。
おもむろに立ち上がると、クローゼットへ近づき鍵を回す。
生きてる間はダメってことは、死んだらいいって事だ。
「開けるよ。」
ドアを手前に引けば、洋服たちの下に少し大きめの引き出しの箱。そこにも鍵がついていた。そちらも一緒についていた鍵で開ける。
中はヘソクリかと思いきや、小さくたたまれた紙が大量に入っていた。