第11章 愛しい人へ(前編)
なぜそれを許したのか。
これでは白澤さんのこと言えないな。
けれども、怒ってはいるだろうけど、同時に余りにも辛そうに眉間にシワを寄せるその鬼を見て、拒む気持ちは1ミリも出てこなくて、言われるがままに抱き締められた。
強めに、それでも大事そうに締め付けるこの腕の中はとても落ち着く。白澤さんとも、もちろん彼とも違う。
匂い
声
抱き方
ああ、これが鬼灯さま。
今何を考えているのだろう。
何を伝えたいのだろう。
命を測る立場の人
多くの人生を見てきた人
そんな人から見たら、私の人生は、死に様は、どんな風に見られたのか。
「……正直怖かったです…。軽蔑されるのではないかと。」
「……できたらいっそ良かったんですけどね…」
柔らかく、優しく、大きな手が私の頭を撫でる。
「……しませんよ。できません。だからどうか、ここでは、これからは、もっとご自分を大切にしてください。」
「…もう死にたくても死ねませんよ…」
「五月蝿い人だ…」
軽くその人の胸を押せば簡単に体は離れる。
鬼灯さまは本当に優しい人だ。