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距離感がおかしい

第11章 愛しい人へ(前編)









「ここです。鬼灯さまはご存知かもしれませんが。」


獣道を抜けたその場所は、そこだけぽっかりと竹林の空に穴が開けられ、スポットライトの如く光が差し込んでいる。その光で水面をキラキラとさせた湖はこの場の時間の流れを歪めているようで私はとても気に入っていた。


「こんなところがあったんですね……」

「知りませんでした?じゃあ新しい発見ということで。」


光を浴びる水面から目を離さない鬼灯さま見て、初めて自分がこの場を見た時のことを思い出す。


「あそこの石、ちょうど座り心地がいいんです。」

赤ちゃんのように真っ直ぐと湖を見つめる鬼灯さまの手をそっと引くと、視線はそのままに素直についてきた。

本当に大丈夫か…?
驚いてくれたのは嬉しいけれどやっぱり家に帰して休ませた方が良かったかな…

じわじわとそんな不安が滲んでくる。

ちらりと見上げたその鬼は、相変わらず同じところを見ていた。ただどうしてだか、その姿をひたすらに美しいと思ってしまった。


「さゆさん」

「はいっ」


石に腰掛けた途端、今まで声を奪われたように静かだった鬼灯さまに呼ばれ、少し声が上ずる。



「…さゆさんは生前、恋人はいたんですか?」


「……え?」


これは予想外。


「鬼灯さまもようやく私に興味持ってくれたんですね。」

「…も?」

「先日ね、白澤さんにも同じようなこと聞かれたんです。」

「…あのヘタレちゃらんぽらんがですか…」

淡々としていた鬼灯さまはあからさまに驚きの表情を浮かべる。確かに否定のしようはないです。

2人とも今の私のことはちゃんと知ろうとしてくれている。それでも、生前の話は全然聞かれないことに、先日の白澤さんとの会話で気づいた。

生前のことは首を突っ込まないのがあの世マナー的なものかとも思ったけどお香さんや茄子ちゃんとかとは仕事や友人の事なども話していたし、ともなれば2人は生前の私ことに興味がないんだろう。

でも

生きてる時の私から始まった私だ。
だからこうして生前の話を聞いてもらえるのは少し嬉しい。

「話したら酷く落ち込んでました。」

「あぁ……というとはやっぱりいたんですね。」



あぁ、のあとの間が微妙に気になるが今は置いておこう…








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