第11章 愛しい人へ(前編)
私や白澤さんに会うずっと前、生きている彼女には恋人がいた。
わかっていた。ある程度予想はしていた。
それでも、その事実に胸のあたりが締め付けられ重くなる。
さゆさんの生前の恋人があの男とは限らない。
でも、
もし、
もし、そうだとしたら……
「その彼に……会いたいですか?」
「うーん…どうだろ。そりゃまぁ、私急に死んだし…でも、会いたいってよりは私が死んだ後どうしてるかを知りたいですかね…」
湖に降り注ぐ光を見つめながらさゆさんはのんびりと口を開く。その表情は懐かしさに想いを馳せているであろう、とても穏やかなものだ。
そんな雰囲気はこの場の空気とあわさり、私の心を落ち着かせる。
「この話、まだ白澤さんにもしてないんですけどね、鬼灯さまは知ってるかもしれないけど…」
「なんでしょう。」
「たぶん私、彼に殺されたんです。」
その声は変わらず、酷く穏やかなものだった。