第11章 愛しい人へ(前編)
「……さゆさん…?」
鬼灯さまは私の姿を認めると、2秒ほどの間を空けてようやく声を発した。
「また芝刈りですか?」
「ええ。気分転換に。」
この姿で会うのは2回目か。
普段やらないからか、自然の中で黙々と作業をするコレは、何も考えないで済む感じが楽しくてあれからちょこちょこやるようになった。
とはいえやはり、鬼灯さまにこの格好を見られるのはなんとなく少し慣れない。
「鬼灯さまは今日はどうしたんですか?」
「なんだか急におやすみをいただきまして……ゆっくり自然の中に浸ろうと思って。ここは、空気も綺麗ですし。」
なるほど。
鬼灯さまは大体、仕事の時は喜々としている印象だが、今日は覇気が感じられないというかやつれが目に見えている。コレは周りもさすがにヤバイと感じたのだろう。
「ね、鬼灯さま、少し付き合ってもらっても良いですか?私の気に入っているところが近いんです。」
金棒を持っていない手を取れば、優しい声で「お願いします。」と答えてくれた。
またあの顔だ……
瞬間
ふわりとした空気を纏うその鬼は
どこか儚げに見えて
気を抜いたら消えてしまいそうで
少し熱い大きいその手をしっかりと握りなおした。