第11章 愛しい人へ(前編)
「今なんとおっしゃいました…?」
「だから、さっきもらった分なら終わったって。」
あまりに珍しいことに思わず聞き返してしまった。
あの、閻魔大王がきちんと仕事を終わらせているなんて…
「私、あなたを見くびっていました。凄いじゃないですか偉い偉い。」
「嬉しいけど君は本当に失礼だよねぇ」
大王はまぁ、慣れてるけどねとため息をつく。
「でさ、鬼灯くん、今日はもう帰っていいよ。」
「え…?」
「君さ、疲れてるんじゃない?最近ため息多かったというかイキイキしてなかったんだけど今日は輪をかけてだよ。みんな心配してるし。」
「そんな…私が…?」
「うん。だいぶね。今日は仕事もだいぶ落ち着いてるし、ゆっくりしておいで。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
そんなに?
周りが休めと言うほど私はあからさまに疲れを見せていたのだろうか?
原因はわかっている。
あの時、白澤さんと桃太郎さんと呑んだ後、2人は普通に、いつも通りにお騒がせしましたと謝りに来た。(白澤さんは睨んできていただけだったが。)
その様子を見て、正直敵わないと思ってしまった。
この想いを告げても、
その後にどんなに口説こうと、
どんなに2人がケンカをしようと、
私は結局「友人」としての枠から出ることはできないのだろうと、
そう
思ってしまったのだ。
「……本当に、何しているんでしょう……」
ようやく脳に届いた景色は酷く見慣れたもので、できれば今は着たくはなかったところだった。
地獄とは真逆、自然の美しい、明るい場所。
彼女がいる場所。
どうしてこんなにも彼女に惹かれているんだろうか。
それさえもわからないのに勝手に動く体と心にいい加減嫌気がさしてきた。
それでも
「あれ?鬼灯さま?」
この声を聞くと、何もかもがどうでもよくなる。