第11章 愛しい人へ(前編)
「あれ?鬼灯様?」
「葉鶏頭さん、お疲れ様です。」
ツカツカと歩いていたところにすれ違ったのは記録課の筆頭、ワーカーホリックの葉鶏頭さんだった。
タイミングの良さに少しの喜びを得る。
「ちょうど良かった。突然で申し訳ないのですが15年から20年前あたりの亡者の記録のリストはありますか?」
「ええ、少し待っててください。」
あの男の年齢やさゆさんの享年からして、さゆさんがこちらへ来たのはおおよそそのくらいだろう。なんとか彼女の記録を思い出そうとするが今となっては端にも残っていない。余程とりとめもない、平凡なものだったのだろう。
そんなことを考えていると5分ほどしか経っていないのにも関わらず葉鶏頭さんが戻ってきてくれた。分厚いリストを短時間で持ってきてくれるあたり彼は本当に優秀な人材だ。
「急にすみませんね、ありがとうございます。」
「いえいえ。ところでそこで確認しても保管庫から特定の人物の記録を見つけるのは大変ですよ?誰かに手伝わせましょうか?」
「いえ、私用なので。それよりもきちんと寝ていますか?急なお願いをしておいてなんですが適度な休息はとってくださいね。適任者は見つけ次第、こちらへ寄越しますので。」
「ありがとうございます。休憩はちょこちょこ取っていますから大丈夫ですよ。まだ妖精も見えていませんから。」
妖精が見えるという発言は聞き返すと闇が深そうなのでスルーして、ハッハッハッと笑う葉鶏頭さんにペコリと頭を下げる。本当、出来るだけ急いで人増やしますね、ここは。
リストをパラパラと見るときちんとあいうえお順になっていたため、思ったより早く見つかりそうだ。本当に記録課の仕事は素晴らしい。
「問題は保管庫ですね…」
一先ず、仕事を押し付けた大王のことが気になるので本来の仕事に戻らなければ。