第11章 愛しい人へ(前編)
何度目かわからないため息をつきながら書類の整理をする。
「鬼灯くんなんか今日大丈夫?ため息ばっかりついてると幸せ逃げちゃうよ?」
「お気遣いどうも。あなたが仕事をこなしてくれれば私は幸せなので手を動かしてください。そして馬車馬のように働け!!!」
「わかった!わかったから!!!その金棒下ろして!!」
はぁ、とふたたびため息が出る。
正直仕事など放り投げて金魚草を何も考えずに眺めていたいがそうもいかない。地獄は相変わらず仕事が絶えず、猫の手も借りたいくらいだ。
「鬼灯様〜〜!」
こんな声も日常茶飯事。
どうせまためんどくさい亡者が現れたのでしょう。
「鳩尾殴って連れてきなさい。」
「いやまだ何も言ってませんから!!」
まぁ結論的にそうなるかもしれないけど。と事を告げにきた鬼がぼやく。
「はぁ…どんな面倒者ですか?」
「あ、はい、それがですね。さっき連れてきた亡者の男が『私は人を殺したことがある。全部すっ飛ばして地獄に落としてもらって構わないから1人だけ会いたい人に合わせてくれないか』と土下座して動こうとしないんですよ。」
「土下座とはまた…」
いるんですよねそういう人。
順序通りに事を進めればスムーズにすむものを変に楽やら近道しようとするから余計に時間がかかって後も詰まる。
「はぁ…では書類整理ももうほとんど終わりなので私がそちらへ参ります。と言うわけで大王、これお願いしますね。」
「えっ?!こっちに回ってくるの??」
「頼みましたよ。戻ってくるまでに終わってなかったら覚悟しておけ。」
マイペースな上司に釘を刺し、傍に置いてある金棒を持ち上げる。
「では行きましょう。」
「助かります!」
天国行きの者も地獄行きの者も、駄々をこねる亡者は少なくない。
とはいえ、
「地獄に落としてもらって構わないとは…地獄も舐められたもんですね…」
現世では浮世絵やコミックでしか見れない地獄はホラーちっくな雰囲気はあれど所詮は想像に頼るもの。
人によっては自分が死ぬよりも辛い目にあう。それが繰り返し繰り返し、ひたすらに続くのだ。
実際に一度だけその罰を体験すれば、その亡者は自分の発言をひどく後悔するであろう。
まぁ、亡者の主観など私には関係のないことだ。