第10章 求めるもの
「さゆちゃんてさ、もしかして初めて?」
焦る私を見てそう判断したのか、調子にのったままの白澤さんはにこにことしながら「絶対そうでしょ?」と聞いてくる。
「いえ。初めてではないです。」
「えっ」
圧倒的余裕を見せるその様子に少しイラッときたのでハッキリとそういえば、あからさまにその顔は曇っていった。
ごめん、私が大人気なかったです。
「えっ…うそ…違うの?強がってない?」
「あのね、生きてる私にも一応恋人との甘〜い思い出はあったんですよ。」
「まじで……」
さっきまでの余裕は何処へやら。
白澤さんの顔がポスンと私の肩のところに落ちてくる。
さっきまで際どいところを触っていた手はいつの間にか私の背中に甘えるように回されていた。
「聞くんじゃなかった……」
「ごめんなさいそんなに落ち込んでくれるとは思いませんでした。」
ごめんなさい正直かわいいです。
さらさらときたその黒髪をなでれば私にしがみついている手に少し力が加わる。
本当にこの人は子供みたいだ。
まっすぐな、純粋なその姿に、先の話に出たいつぞやの恋人が浮かんだ。
彼は今どうしているのだろうか。
そもそも私が死んでから何年たったっけ?
いずれにせよだいぶ昔のこと。
彼のことはちゃんと覚えてる。
覚えてはいるけど、ずっと昔の、初恋の人を思い出すかのようなものだ。
「もう過去のことなんだなぁ…」
「え…?」
のそりとこちらを見るその目は、心なしか少し潤んでいるようにも見えた。
「死ぬまで、まぁ今もですけど、その人のことちゃんと好きだったんです。本当に、心から愛してました。でも、今白澤さんとその人が目の前にいて、どっちを恋人にするかって聞かれたら、私は白澤さんをとるんだろうなぁって。」
「えっ」
「言ったでしょ?好きですよ。白澤さん」
普段、私ばかりが白澤さんから好意をもらっている気がする。だからこそ、ちゃんと言えるときは言葉にしておきたくなるんだ。
「あーーーもう無理!」
白澤さんがゴロンと転がり、のしかかっていた重さが消えたかと思えば、彼は真っ赤にした顔を隠しながら隣に大の字に転がっていた。
「君を抱ける気がしない…」
「ちゃんとムード作ってくれたらいいですよ。」
「ホント無理…」