第1章 ドイツから来た婚約者
【美琴】
自分の肩をトントンと優しく叩かれているのを感じる。でも、目が開かない。
「ママ…眠い……寝かせて……。」
そう呟いて身体の力を抜くと、頭の上から優しい声がする。
「寝かせてやりたいが、ここで寝ると風邪を引くよ。」
母だと思っていたのに、その声は明らかに低い男性の声。
「…ぇ……え……?」
嫌な予感にゆっくり眼を開けると、目の前に彼の赤い瞳があった。
「わっ!あ、私っ!」
ビックリして慌てて距離をとろうとした。
『顔が…あつい………。』
顔から火が出る程恥ずかしい…。
「やはり疲れていたんだね。」
彼は私に怒ることも気分を害した様子もなく、驚いている私を見て笑った。
「今日は部屋でゆっくり休むといい。」
彼がそういうと同時に、タイミング良く車のドアを運転手さんが開けてくれた。
「あの、すみませんでした。…じゃあ……あ、あれ?眼鏡…?」
視界が心なしかボヤけていて、戸惑うと
「これかな?」
彼ら私に眼鏡を渡してくれた。
「眼鏡を掛けたままだと、寝ずらそうだったからね。おやすみ。」
「…おやすみなさい。赤司さん。」
優しい笑顔の彼に、私はおやすみの言葉をいうことで精一杯だった。