第1章 ドイツから来た婚約者
【美琴】
「身体は疲れていませんか?」
「…えぇ、大丈夫です。」
「日本は初めて?」
「いいえ、両親の祖父母に会いに時々。…京都は初めてですけど…」
空港から彼の家が用意した車に乗って、京都市内へ向かう車内。
気まずい空気を感じながらも、彼と話をしていた。
「俺も実家は東京でね。進学に選んだ高校の関係で京都にいるんだ。」
「そう…、何故、京都の高校に?」
不思議に思って彼の顔を見ると、彼は窓の外を見ていた。
「…大人になる前に、やっておきたいことをする為。」
「…?」
説明されたことの意味が分からなくて、小首を傾げると、
「いや、京都の学校に行きたかったからだよ。」
今度はこちらに振り向いて、私の顔を見て笑った。
【征十郎】
車内で少し言葉を交わした後、返事をしなくなった彼女を見ると、彼女は眼を閉じて眠っていた。
『大丈夫だなんて言って、やはり疲れていたんだな。』
俺は嘆息して、流れる景色を見ていた。
すると、
トンッ
俺の肩に何かが当たった。
そっと肩口を見ると、彼女が俺の肩にちょこんと頭を乗せて眠っていた。
規則正しい呼吸に何の計算も感じない。
彼女から眼鏡をそっと外し、手に持ってやる。
そして眠っている彼女の顔を覗き見て、また自分の胸がトクンッと動く。
今まで、俺に寄ってくる沢山の異性は、媚びたり色仕掛けをしてみたり、そんな行為に感情がどんどん冷めていくのを感じていた。
人の好意なんて、吐き気がする。
しかし、今、俺の肩で寝ている彼女は、安心しきった顔をして、俺に体温を預けてくれている。
冷めていた感情が溶けていく。
『俺の直感は、正しかったかもしれない。』