第30章 夏合宿 ⑤君の能力
気持ち悪いかな……。
不安な気持ちが視線を下げていく。
すると、頭の上に程よい重みを感じた。
私は視線をあげると、征十郎さんが私の頭に手を乗せてる。
「君にそんな力まであるなんて。美琴は魅力がありすぎる。」
思ってもみない台詞に、私は驚いて声も出なかった。
「魅力的すぎて、俺は少し困るぐらいだよ。」
「困りますか…?」
私は不安になって呟き、征十郎さんを見上げると、彼は困った笑みを浮かべて、私の両手を掬い優しく握った。
「…指が少し冷たいね。夜だからかな…?」
その時、征十郎さんの赤い髪が、夏の夜風にフワッと立ち上がった。
その光景に自分の頬が赤くなるのを感じる。
そして、まるでスローモーションのように征十郎さんの端正な顔が私に近づいてきて、唇がふれそうな距離で止まった。
「…キスしたい。」
「…はい。」
ささやくような返事をしたと同時に、唇にキスが降りてきた。
久しぶりにもらう優しいキスに、胸が壊れるぐらい鳴っている。
そしてそっと唇が離れると、私は彼の腕の中に捕まえられた。
「あの……。」
戸惑って彼の胸でくぐもった声をあげると、彼の優しい声が降ってきた。
「1つお願いがあるんだ。」
「?何ですか?」
「さっきの話、絶対に男子部コーチに言わないこと。
そして………
そして海は、ジャージを来ていくこと。分かった?」
「?あの?」
「返事は?」
征十郎さんの有無を言わさない雰囲気を感じて、私は腕の中で頷き返事をしたのだった。