第1章 ドイツから来た婚約者
【美琴】
『えっと…』
私、西園寺美琴は、遥々ドイツから婚約者になる予定の人に会うため、留学してきた。
夜の関西国際空港に降り立つと、掛けていた眼鏡を両手で持ち上げて、辺りをキョロキョロ見渡す。
しかし、迎えのプラカードなど持った人も見えず、どうしようかと顎に手を当てて考えていると
「美琴さん、だね。」
背後から名前を呼ばれ振り向くと、赤い髪と瞳を持った男子が私を見ていた。
「えっと……あっ、赤司…征十郎…さん?」
「あぁ、初めまして。赤司征十郎です。」
ドイツで見せてもらったお見合い写真と同じ顔をした男子が、握手を求めて手を差し出していた。
「ようこそ、日本へ。」
彼はそう言って微笑む。
『優しそうな人…』
彼が私の婚約者。
【征十郎】
『21時…時間より遅れたか…』
腕時計を確認して、俺は辺りを見渡した。
今日到着予定の婚約者候補。
婚約者をそろそろ決めろと渡された見合い写真、その中から選んだ女子。
眼鏡の向こうに菫色の瞳を持つ、優しい雰囲気の彼女に興味を持った。
彼女を選んだ時のことを思い出て、物思いに耽っていると、辺りをキョロキョロしている小さな後ろ姿を見つけた。
「西園寺美琴さん、だね。」
振り返った彼女に俺の心臓がトクンッと跳ねた。初めての感情。
「えっと……あっ、赤司…征十郎…さん?」
「あぁ、初めまして。赤司征十郎です。」
俺を見て戸惑う彼女に、可愛らしさを感じる。
『あぁ……綺麗な眼だ……。』
「ようこそ、日本へ。」
俺は自分の中に芽生えた初めての感情に、自然と微笑んでいた。
彼女が俺の婚約者。