第5章 春の日の散歩 [後編]
[征十郎]
確か烏丸通りの細道に、玲央が騒いでいたカフェがあったはず。
俺は、商店街から一本はいり、小道を歩く。
すると、小さな看板が出ていた。
“隠れ家 奥の細道”
京都の伝統的住宅の間に、石畳が引かれている。
「行こう。」
俺は彼女を連れて、石畳の飛び石を歩いた。
「…不思議の国のアリスみたいですね。」
俺は、彼女の方を振り向く。
「ぁ……この小道を通るとカフェに通じているなんて、素敵だなって…。」
自分が言ったことが恥ずかしくなったのか、彼女は顔を赤くして、俯いてしまう。
「ふふっ。確かにティーパーティーかな。これからお茶を飲むんだしね。」
俺の思考にはない彼女の感覚に、新鮮さを感じる。
俺たちは、“隠れ家 奥の細道”に入った。
「いらっしゃいませー。」
店の中は、明治ロマン溢れる雰囲気。
黒塗りの和家具に、黄色いランプ。センスのいい店内だった。
俺たちは、和室の座敷に通された。
小さい黒塗りのちゃぶ台の上に、小さい砂糖が入った壺がちょこんと乗っていた。
「ご注文、お決まりになりましたら、お伺いにいきます。」
店員はメニューと水の入ったコップを置いて、カウンターへ帰っていく。
彼女を見ると、物珍しそうに店内をキョロキョロしている。
「何を頼もうか?」
俺は、彼女にメニューを開いて渡すと、彼女は、受け取ってメニューを見た。
そして、ふと、カウンターの方へ視線を向けた。
俺も、カウンターに目を向ける。
すると、コーヒーサイフォンが並べてあり、コポコポと音を立てて、コーヒーが作られている。
「…私、コーヒーにします。とても美味しそう。」
「俺もそうするよ。」
店員に手をあげて、注文する。
店の中は、コーヒーのいい匂いが漂っている。