第30章 夏合宿 ⑤君の能力
[美琴]
征十郎さんに手を引かれ、私は宿2階のある扉までやって来た。
「ちょっと待ってて。」
「?はい。」
すると、征十郎さんは私からスっと手を放すと、上着のポケットから小さな鍵を出し、その扉に差し込んだ。
カチャッ
小さな解錠音がして、征十郎さんは優しく扉を開いた。
「俺たちバスケ部の合宿後に、うちの天文部がここへ合宿に来るんだ。ここはその天文部が星の観察に使う展望テラスなんだよ。」
そういってテラスへ歩みを進める征十郎さんの後を追って、私も外へ出てみた。
すると、
「わぁ。」
視界に広がったのは、夏の夜空だった。
夏なのに星が綺麗に見える。
「征十郎さん、北斗七星です。あ、夏の大三角も見えます。素敵なテラスですね。」
私は素敵な星空に、足取り軽くテラスの手すりまで近づき、征十郎さんへ振り返った。
ぁ…
征十郎さんは、一歩下がったところにいて微笑んでいた。
…っ!
急に恥ずかしくなって、私はクルッと後ろを向いて、手すりを握りしめる。
「…ここなら二人きりで話せる…。」
「…ぇ?」
小さく呟いた征十郎さんの声に振り向くと、彼は静かに私の隣に立ち、先程大広間で見せた私のノートをそっと差し出した。
「これは美琴が書いたノートだよね?」
「はい。」
真剣な征十郎さんの表情に、私の戸惑いが広がる。
「あの…そのノートに何か?」
不安になって、彼を見上げると、彼は私の視線を受けて持っている私のノートをペラペラと捲った。